大切便りとは

「大切便り」は、シニア世代とその家族に向けて、思い出や日々の暮らしを“手紙”のように届けるコラムです。
みなさんの心に寄り添い、「自分の大切」を思い出すきっかけになることを願っています。

村上 健一さん(61歳)
父の介護を経て見送った経験を持つ。現在は定年後の生活を送りながら、自身の家族との時間を大切にしている。
病室でのひととき
父は長い闘病生活の末、静かな時間を病室で過ごしていた。点滴の滴る音と、遠くで聞こえる看護師の足音だけが響いている。
椅子に腰をかけた私に、父はゆっくりと顔を向け、「来てくれてありがとうな」と笑った。
その声はかすれていたが、不思議と力強かった。私はただ首を縦に振り、手を握り返すことしかできなかった。
交わした言葉
「お前はよくやっているよ」
父はそう言った。幼い頃から厳しく、なかなか褒めることのなかった父の言葉に、胸が詰まった。
「もっと頑張らないと…」と言いかけた私に、父は首を振り、「頑張ることも大事だ。でもな、無理をしすぎるな。家族と過ごす時間を大事にしろ」
その言葉に、私は返す言葉を失った。父がいつも口には出さなかった「優しさ」が、最後にようやく形になった瞬間だった。
別れとこれから
やがて父はまぶたを閉じ、静かな寝息を立て始めた。その横顔を見つめながら、私は心の中で繰り返した。
「ありがとう、お父さん」
伝えきれなかった感謝の言葉は数えきれないほどあったが、それでも最後に交わした言葉が私を支えている。
父の「家族を大事にしろ」という言葉は、今も私の背中を押し続けている。忙しい日々の中で立ち止まると、あの日の病室の光景と、父の声がよみがえる。別れは悲しいけれど、父は言葉を通して私の中で生き続けているのだ。
読者のみなさんへ
父との最後の会話は、私にとって人生の道しるべになりました。大切な人に想いを伝えることは、決して遅すぎることはありません。
どうか皆さんも、心にある言葉を大切な人へ届けてください。
最期の瞬間に交わす言葉は、別れの涙だけでなく、生きる力にも変わります。大切な人への言葉を、どうか惜しまず伝えてください。
素敵な想い出をありがとうございました。
※本記事はプライバシー保護の観点から、登場する名前や人物設定はすべて架空のものです。ただし、綴られた想いの核心は実際の体験や声に基づいています。