大切便りとは

「大切便り」は、シニア世代とその家族に向けて、思い出や日々の暮らしを“手紙”のように届けるコラムです。
みなさんの心に寄り添い、「自分の大切」を思い出すきっかけになることを願っています。

石田 美紀さん(45歳)
小学一年生の息子を育てる母。亡き父とのつながりを、息子を通して感じる体験をした。家族の記憶を大切にしながら日々を過ごしている。
思いがけない一言
夕食を食べ終えて、息子が床に座って絵を描いていたときだった。
「おじいちゃんがね、畑で野菜を抜くの上手なんだよ」
私は思わず息子の顔を見た。
父は家庭菜園を愛していたが、息子が生まれる前に亡くなっている。私は父の畑の話を息子にしたことなど一度もなかった。
「そのおじいちゃんって、どのおじいちゃん?」と聞くと、息子は迷いなく仏壇の方を指差した。その瞬間、背筋に冷たいものが走り、同時に胸が熱くなった。
父の声
「おじいちゃんがね、僕に“野菜は土から力をもらうんだぞ”って言ってたよ」
息子の口から出たその言葉は、まさしく父が私によく言っていた口癖だった。亡くなって十年以上たつ今、思いもよらぬ形で耳にした父の言葉に、涙がこみあげた。
その夜、私は古いアルバムを取り出した。畑で泥だらけになりながら野菜を抱える父の笑顔。息子が語った言葉と重なり、まるで父が再びそこにいるかのように感じられた。
つながっていく想い
不思議な体験だった。
でも、それをただの偶然だとは思えなかった。人は亡くなっても、想いや言葉は形を変えて残る。そして、それは血のつながりや家族の絆を通して、次の世代へと伝わっていくのだろう。
息子が話した「祖父の思い出」は、私にとって忘れていた父の記憶を呼び起こしてくれた。父の声は決して消えたわけではなく、息子を通して今もめぐり続けているのだと信じたくなる。
読者のみなさんへ
子どもが語った祖父の言葉は、私にとって何よりの贈り物でした。大切な人の想いは、姿がなくなっても次の世代に届くのだと思います。どうか皆さんも、ご家族との会話や思い出を、心に留めてください。
家族の想いは、姿を超えてめぐっていきます。あなたの中にも、誰かから受け取った言葉や記憶が息づいているのではないでしょうか。
素敵な想い出をありがとうございました。
※本記事はプライバシー保護の観点から、登場する名前や人物設定はすべて架空のものです。ただし、綴られた想いの核心は実際の体験や声に基づいています。