大切便りとは

「大切便り」は、シニア世代とその家族に向けて、思い出や日々の暮らしを“手紙”のように届けるコラムです。
みなさんの心に寄り添い、「自分の大切」を思い出すきっかけになることを願っています。

佐藤 幸子さん(72歳)
夫と二人暮らし。趣味は草花の世話と手仕事。
息子夫婦と孫が帰省してくれるのを、夫と共に何よりの楽しみにしている。
玄関で迎える喜び
戸を開けると、そこには少し疲れた顔をした息子と、明るく「こんにちは」と声をかけるお嫁さん。
荷物を抱えながら立っている姿に、日々の暮らしの忙しさがにじんで見える。
そして一番に「じいじ!ばあば!」と声をあげて駆け寄ってきたのは、元気いっぱいの孫だった。
夫は腰をかがめて「おう、よく来たな」と抱き上げ、孫の笑顔に目を細める。
私も思わずその背中に手を添え、小さな体から伝わるぬくもりに胸がじんわりと満たされた。
玄関の戸口に漂う土の匂い、孫の弾んだ声、息子夫婦の少し安堵した笑顔。
そのすべてが重なり合い、心に「帰省の喜び」が染みわたっていった。
家の中に広がる賑わい
普段は静かな居間も、今日はまるでお祭りのよう。
孫は畳の上を走り回り、古いちゃぶ台の下にもぐっては笑い転げる。
夫はその様子を見て「こらこら」と言いつつも、結局一緒になって遊んでいる。
私は台所から二人を眺めながら、鍋の味を確かめる。お嫁さんは「お義母さん、手伝います」と気を遣ってくれるが、「いいのよ、せっかくの休みなんだから」と言って座ってもらった。その代わり、夫が孫を肩車し、孫の歓声が天井に届くほど響いた。
その光景に、かつて息子が幼かった頃の姿が重なる。ちゃぶ台の周りを同じように走り回っていた小さな背中。
過ぎ去った時間と今の賑わいが重なり、思わず目に涙がにじんだ。
夕方には、みんなでちゃぶ台を囲む。湯気の立つ煮物や味噌汁を前に、夫が「やっぱり家の飯が一番だな」と言うと、孫も「ばあばのお味噌汁、おいしい!」と笑った。その一言だけで、何度も台所に立った疲れがすべて報われた気がした。
帰省が教えてくれること
夜、孫が眠った後の家は、再び静けさを取り戻す。布団にくるまる小さな寝顔を見つめながら、私は心の中でつぶやく。
「あなたの未来に、じいじとばあばの想いが少しでも残りますように」
居間に戻り、夫と湯飲みを傾けながら語り合う。
「大きくなったねえ」
「ほんとだ。次に会う時は、もっと背が伸びてるかもな」
二人で笑いながら、過ぎていく時間の早さをかみしめる。
帰省はいつもあっという間だ。でも、短い時間だからこそ一瞬一瞬が輝きを放つのだろう。
孫の声が響いた今日の記憶も、きっと私たちの心を長く温め続けるに違いない。
読者のみなさんへ
孫と過ごす時間は、過去と未来がひとつに重なるような瞬間です。
夫と二人で迎える“おかえり”は、人生で何よりの贈り物だと感じています。
どうか皆さんも、ご自身の家族との時間を心に刻んでください。
玄関での「おかえり」は、世代をつなぐ合図のようなもの。
家族の声が響くその瞬間こそ、人生でいちばん豊かな時間なのかもしれません。
素敵な想い出をありがとうございました。
※本記事はプライバシー保護の観点から、登場する名前や人物設定はすべて架空のものです。ただし、綴られた想いの核心は実際の体験や声に基づいています。